手紙という文化は現在においては古い伝達方法であり、情報の伝達で使うという人は皆無に等しいと思います。しかし電話が、メールが、ネットでのリアルタイムでのやりとりが可能になった今でもどこか特別な意味がある伝達方法として残っています。その文章を書いた人の思いや、取り囲む環境を想像しながら文字を目で追っていくという好意は、古臭く意味がないように思えるけれど、どこか心に響くものがあるからこそ今もなお愛されているのでしょう。そんな「手紙と心」を題材にしたアニメの最高峰ともいえる作品がヴァイオレット・エヴァーガーデンでした。
戦争のため、兵器として育てられてきた少女が、手紙を通じて愛に触れ成長していく物語。そんな作品に相応しい劇伴は是非ともアニメを見た後にサウンドトラックで楽しんでみて欲しいところ。作品自体の完成度がそもそもものすごく高いですが、この音源の完成度も驚くほど最高です。オーケストラで、コンサートホールで聴きたくなるくらい多彩な楽器やコーラス等を使い「平和に向かって復興する世界」の表現や、環境音(特にメインテーマに入るタイプライターの音の使い方の上手さは必聴)を効果的に使った「花が徐々に咲き、ひらいていくような成長」の表現。シンフォニーの素晴らしさが詰まってるような素晴らしさは言葉のみで簡単に言い表せるものではありません。
架空の世界が舞台のはずなのに、聞き終えた後はどこか懐かしさや郷愁を感じるような楽曲は、ドラゴンクエスト3のBGMのオーケストラバージョンに通じる所があるように個人的には思います。
どことなく中世~近代の欧州を思わせる荘厳な雰囲気は、それぞれの楽器から鳴る音や楽曲に宿る力によるものであることは間違いないのですが、さて現代に生まれ日本から出た事のない筆者が何故そこに郷愁を感じるのかは、全くわかりません。情けない話ですが「そう感じるんだもの」としか言いようがない。人はメジャー・コードに明るい響きを感じ、マイナー・コードに暗い響きを感じる事に科学的な根拠はないというお話で誤魔化したくなりますが、それでもヴァイオレット・エヴァーガーデンの劇伴に感じる郷愁を説明するのであれば、息をのむような映像美と相まって世界観に没頭してしまっているからなのではないでしょうか。
戦争の悲惨さ、社会での人との付き合い方、手紙を通じて主人公ヴァイオレットが知る家族愛や兄弟愛などの様々な愛情。それにより心というものを少しずつ理解していく様。そして、ヴァイオレットの言葉にならないような感情、足りない部分を音で表現しているかのような美しいシンフォニーや悲しい響きなど、その場面場面でやりきれなくて心を痛めたり、涙が出るほどに心を動かされたりするほど強く共感させられる作りが素晴らしいからなのだと思います。 特に個人的に推したい曲は「Never coming back」です。コーラスがとても美しく、曲名の通り戻らない時間を想うシーンで使われています。
ハープで奏でられる悲しくも美しい旋律にピアノやヴァイオリンが重なり、アニメーションの世界のみならず、自分の人生の序盤、まだ親元で何不自由なく楽しく過ごしていたころが思い出されます(どことなく自分が子供の頃にプレイしたファイナルファンタジー5のBGM「はるかなる故郷」にも少し通じるような、ケルト風の旋律だからなのかもしれません)これほどまでに記憶を、感情を揺さぶる音楽がとても良いシナリオで映像の綺麗な作品で流れるのです。是非ともアニメと合わせて聞いていただきたいです。
ヴァイオレット・エヴァーガーデン公式サイトより