ジャンプ+での新連載の第一話から「この漫画はアニメ化して覇権を取るやつだ」なんていう預言めいたコメントが散見されるくらいには完成された漫画だったとは思う。しかし、正直コンビニに関連商品が並び、登場人物の中でも間違いなく一番人気のアーニャが表紙の参考書(しかも勉強関連だ。)が売り出され、アニメに続き映画も大大大ヒットして社会現象的に流行してしまうなんていうここまでとんでもない未来を予想していた人は稀なのではないだろうか。それほどまでに売れに売れたSPY×FAMILY(iPhoneでは予測変換が出るほどである。これはPCで打ったから手打ちしたけど。)は、やはりというか当然ながら非常に優秀な劇伴が物語を盛り上げてくれていたのである。
スパイ作品は昔から映画などでもお馴染みの人気ジャンル。推しも推されぬ金字塔007のテーマやミッションインポッシブルのテーマなどは誰しもが一度は聞いた事があるというくらいに有名だ。スパイファミリーのメインテーマ「STRIX」を聞くと上記の2作品の他にもインクレディブルや名探偵コナンのテーマソングなどを思い出す。ジャズ・ミュージックのヒリヒリとした緊張感がスパイという立場にバシッとハマる。そんなにも沢山の要素を詰め込んでいつつもオリジナリティも確保している偉大なるオマージュ作品だ。「WISE」を聞くと、ルパン三世のテーマとジェームズ・ボンドのようなマインドを強く感じるパターンなんかもあったり、非常に欲張りセット。かと思えば「PLAN B」や「Crisis of my home」の冒頭のようにメインの楽器をすげ替えるだけという手法で「可愛らしいスパイごっこ・ちょっと間抜けなイメージ・ほのぼのとした中に一粒の緊張感」というような印象に化けるのもスゴイ。スパイファミリー自体が、作品のテーマや時代背景なんかは作風に似つかわしくない程に重く陰惨なイメージであるのに、魅力的なキャラクター達の動きや表情、コメディタッチに寄り過ぎないようにしつつも、必要以上に重たくしないように細心の注意を払ってバランスをとっている作品なので、全体的に暗くならずに人気作品になったという側面もあると思う。
そういった原作の絶妙なバランス感覚を、作品の世界観として落とし込みブランドイメージを確立させたのは確実に劇伴の力が大きいだろう。先日日本で行われた京伴祭でもスパイファミリーの曲が演奏されたそうで、ライブで見られたファンの方は夢のような時間を過ごしたのだろうと思います。
「housework」や「try again」などの、日常的シーンなんかで使われている楽曲は、上記の曲たちと比べてピアノやホルン、フルートやピッコロのような、比較的メジャーで聞きなれた楽器によってホッとするような温かみと安心感があるような曲となっている。どこか懐かしくも異国を感じさせるような楽曲たちは、東西の冷戦が続いているというスパイファミリーの舞台となっていると囁かれるドイツ等を想起させるような配慮だろうか。
「Berlint」のように古き良き時代を感じさせるようなスタンダードでゆったりした曲や「Gorgeous step」のように元気の出るような、踊りだしたくなるようなジャズ・ミュージックなんかも。こういった平和な音楽が映えるのもスパイっぽい疾走感のあるジャズとの対比、あたかも仮初の平和を守るため、真実のモノにするために奔走する主人公のフォージャー一家の二面性を表すかのようだ。
語りだしたら全ての曲と全てのシーンの素晴らしい結びつきについて語りたくなってしまうが、やはり劇伴はアニメを思い出しながら楽しむもの、アニメと一緒に見て完成するものであるから、是非とも名作の名作たる所以を曲とともに感じて欲しい。