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株式会社アテナ

久石譲氏が日本の音楽界に与えた影響(前編)

 日本アニメを世界に知らしめた1番の功労者はおそらく宮崎駿氏ではないかと思います。ジブリ作品は日本ではもちろん海外での評価も非常に高く、知名度も抜群に高い。もちろん作画やストーリー、世界観などのアニメーションがその人気の核となっていますが、広く海外の方々に受け入れられたのは音楽の力に依るところも大きいのではないでしょうか。

 ジブリの音楽を初期から担当している久石譲氏の名が世に知れ渡ったのもまた、ジブリの原点とも言える作品「風の谷のナウシカ」からでした。久石譲氏が作りだす曲の数々は宮崎駿氏の想像力を掻き立て、世界観を押し広げるというシンデレラフィットぶりで、その後は皆様の知る通り数々の名作を世に打ち出していきました。そもそも久石譲氏はとんでもなく日本人の感性(心の中にある原風景、ともいえるかもしれない)に合わせた曲を書くのが非常に上手いと思うのです。

 代表曲の一つ「Summer」は、少し田舎の坂道、青空、涼しげに揺れる木々、田んぼ、入道雲…どんどん頭の中に自分だけのあの日の夏のイメージが湧き上がってきます。日本人が好きなカノン・コードを使用しているから、ものすごく親近感がわきますし、それでいて今年の夏というよりは、思い出の中の戻れない夏というような少しの切なさも(付け加えるなら、自分の子供を見て自分が子供の頃の夏を思い出しているかのような…)表現されている。これはおそらく、メインテーマであるメロディを様々な音で追いかける(リフレインする)部分が「回想」というように捉えられるからではないでしょうか。音楽には風景を想起させる力がありますが、この方のそれはちょっと異次元のレベル過ぎます。宮崎駿氏は、音楽にあまり興味がなかったらしいのですが当時ディレクターとして作品に関わっていた高畑勲氏が当時それほど有名ではなかった久石譲氏の音楽にほれ込み、当時からすでに有名な他の作曲家の先生達を差し置いてでも推したのが始まりだったとか。

これだけ、心の風景を思い起こさせるような音楽を聞いたら、クリエイターならば誰でも筆に興がのるかもしれません。

ナウシカ、ラピュタ、トトロ、魔女の宅急便…挙げればきりがない

 ジブリ初期の作品達のそれぞれの世界観を存分に広げ、アニメを視聴する人々に余すことなく、どころか相乗効果で伝えてしまう久石譲氏の作る劇伴は、当初から圧倒的で後の劇伴作家のみならず、ゲーム音楽などにも多大な影響を与えています。


 「風の谷のナウシカ」のオーケストラが現在YouTubeに上がっていますが、こちらでは劇伴をストーリーのように連続で演奏しています。荒廃した世界を思い起こさせる悲しくもどこか美しいメロディ。ハープから入ってピアノにメロディをタッチするところや、その後のコーラスからまたハープに戻っていく部分は静かで穏やかな自然を感じさせ、やがてかつて人によって栄えた文明がまた人の手によって破壊されていくような激しい音楽に変わっていきます。当時30代でこの曲を書いたなんて全く信じられないほどに、世界観に負けず劣らずの重厚な音楽。
「天空の城ラピュタ」はサウンドトラックを全て語りたいほどに好きなのですが、特に「ハトと少年」が短いからこそスゴイ。この清々しいトランペットのサウンドのみで朝日がのぼる風景、広場、パズーのキャラクターなどがすべて詰まっているかのようです。

 トトロに関してはなんと詩先であのメロディを生み出したという逸話も凄いと思うのですがやはり「風のとおり道」ですね。神秘的で、美しいのに少し怖いメロディの中には、子供の目線でしか見る事の出来ない、感じられない感情を表しているからこそ、年をとればとるほどに胸に直接響いてくるようです。ピアノのリフが綺麗すぎて、涙が出てきます。

 魔女の宅急便は「海の見える街」を聞くたび感服してしまいます。見たことのない、住んだこともない、舞台のモデルとなっているスウェーデンの街並みが、何故か懐かしさとともに思い起こされる。まさしく呪術廻戦の東堂のように「存在しない記憶」が脳内に溢れてくるような感覚です。
と、このように語り尽くせない程に名作を続々生み出す久石譲氏。次回は後編を書きます。


ユニバーサル ミュージック合同会社 (UNIVERSAL MUSIC LLC)より

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