久石譲氏の曲は心の原風景に訴えかけてくるような音楽だと前編で語らせていただきましたが、何故そんなにも心の奥に閉まってある思い出を引き出す程の音楽になっているか、これはやはりひとえに説得力の強さにあると思います。
つまり久石譲氏の曲には圧倒的に説得力があるという事になりますが、それは何故か。最近流行している楽曲はジェットコースターのように急にリズムが変わったり転調したり、それはそれでパッシングコードや代理コードを使って音楽的に無理のないように工夫はされていますが、やはりどこかツギハギ感は出てしまうもの。久石譲氏の曲にはそういった無理さが全くないからこそ説得力抜群なのだと思います。かといって無難に音を選んでいるわけでは全くない。非凡なメロディは人の心を捉えて離さない力があります。
元々評価が高かった宮崎駿氏が文字通り世界のハヤオ・ミヤザキとなった作品、もののけ姫。久石譲氏の音楽も世界中に一気に知れ渡りました。サントラを聞くとやはり「アシタカせっ記」が非常に印象深いです。楽器は西洋のモノが使われているのにどこか日本的に感じられるメロディ、雄大でどこまでも広がり、人にとっては危険な自然を思わせる名曲です。映画で使われているシーンは泣けるシーンではないのに涙が出てくるほどに。
その次の千と千尋の神隠しは、歴代ジブリ作品の中でも興行収入ランキング1位で、筆者の周りでもジブリの中で一番好きな作品として千と千尋を挙げる人が多いです。楽曲「あの夏へ」の冒頭のピアノの、メロディに当たるコードが微妙にディスコード気味になっていて、何か大事な事を思い出せていない気がする…という千尋の感覚をピアノ一本で表現しているかのよう。曲が進むにつれてコードは変化していき、ピタリとハマる音になっていく。一音一音に意味があり、映像と音楽は対等であり、相乗していくものだという圧倒的説得力。どの曲もそうですが、本当に神業的です。
少し初期のような世界観に立ち返ったかのような名作「ハウルの動く城」からは、「Merry go round of life」3拍子でワルツのようで、大人っぽい上品さと優雅な雰囲気。壮大で舞踏会のような楽しさと、どこか少し寂し気な哀愁という相反する感情が胸に溢れてくるようなとても不思議な楽曲です。悲劇の中でも明るさや信念、気品を失わずに人生を過ごしていかねばならない事の大切さ、難しさを一曲に落とし込んでいるかのようです。
崖の上のポニョの「Ponyo on the Cliff by the sea」も非常に面白い作品。底抜けに明るく楽しく子供的なメインメロディと、曲の中盤から聞こえてくる不安感を誘うメロディは、こちらもまたどうしたら良いかわからない、というようなまだ指針のない子供の迷い、という音を木琴やピッツィカートで表現されているのも見事です。
ジブリ作品の中でも、屈指の切ないストーリーで人気を博した「風立ちぬ」。やはりこの作品では「旅路」が有名でしょう。マンドリンやバラライカの音で田舎の光景を思わせ、青空を思わせるようなフルートやオーボエ、クラリネットの綺麗な音色。激動の時代を思わせるメロディ、静かな意思を感じさせるような中盤のピアノの音色なども必聴ポイントですね。一曲に映画の光景がまるまる詰まっているかのような楽曲という意味では歴代ナンバーワンの没入感かもしれません。
まだ発表された時が記憶に新しい「君たちはどう生きるか」の楽曲ももちろん担当は久石譲氏。しかし筆者がまだ君たちはどう生きるかを未視聴なので、楽曲としてしか聞けていない。やはり劇伴は映像と一緒に見るのが本懐だろう。とはいえ穏やかで切なくも力強いピアノ曲で、ワンコーラス聞いただけでも非常に映画が見たくなる、そんな楽曲でした。先に音楽を聞いても「このメロディは、どんなシーンで使われているんだろう?」というように想像したり、実際にアニメ映画として見た時の感動はまたひとしお。これからもまだまだ日本の音楽界を引っ張っていってほしい方です。