最近SNSで劇伴作家の梶浦由記さんが元々プロデュースしていたkalafinaというコーラスユニットが復活する(した?)というニュースが盛んに取り上げられていた。kalafinaといえば、空の境界というアニメの主題歌を歌うために作られたプロジェクトであり、メンバーも未公開のままデビューしたという異例さで話題になっていたユニットだ。梶浦氏の作る独特のコーラスワークを見事に表現し活躍したが、2019年に惜しまれながら解散していた。しかしそれが2025年に活動を再開するというのだ。前述のとおりプロデューサーは梶浦氏であることがkalafinaのアイデンティティのひとつであったと思うのだが、当の梶浦氏からSNS越しでなされた発表は「私のプロデュースを離れ、私の知らない所で新しいKalafinaとして歩まれることを決意されたのでしょう。私は私で、将来また一緒にKalafinaの音楽を紡げる道を探ってはおりましたが、それはもう叶わぬ未来となりました」というとてもショッキングなモノであった。
しかしこの発表は、梶浦氏としてはkalafinaが単に自分のプロデュース外のアーティストとなったというだけで、これからも頑張ってほしいという意味合いのつぶやきであった様だ。
正直、梶浦氏のファンである筆者としては個人的には「kalafina側がちょっと不義理なのでは…」と感じてしまうような内容ではあったが、もちろんkalafina側にも意向や意見もあるだろうし、深く関わっていない者からの憶測は邪推に他ならないだろう。今回は表沙汰になっている部分だけを見て、(梶浦氏は)寛大な人だなあと個人的に感じた、というだけだ。
というワケで、今回は名作「Fate/stay night」の劇伴を深堀したい。梶浦由記先生の作る劇伴の特徴と言えば、まずは「不思議な言語で入ってくるコーラスワーク」ではないだろうか。今作の劇伴にもそれはふんだんに使われており、フェイトの独特の世界観を邪魔せず、むしろ作品内の緊張感や哀愁を見事に表現されている(例えばサウンドトラックのDISC1、3曲目のcherries are falling等)。そもそも、劇伴には明確なメロディラインというモノをコーラスで表現されることは少ない。それもそのはず、基本的には劇伴にあまり「声」という音は入ってこないからだ。この梶浦氏独特のスキャットは劇伴界における明確な発明だろう。そしてもうひとつ、梶浦氏の特徴と言えば前回「魔法少女まどかマギカ」の劇伴でも語らせていただいたが「中世とも現代ともとれるようなサウンド」を表現するのがとても上手という事だ。ちょっと懐かしさを感じる、ケルティックな曲などでも使われているが、ドリアン・スケールという、あまりJ‐POPなどでは耳馴染みのないスケールを使っている事が多く、(明るめの楽曲ではミクソリディアン・スケールを使っている楽曲も存在したが、やはりドリアンスケールを使用している楽曲の方が断然多い)それが独特の郷愁を感じさせるメロディラインや、厳かな雰囲気を醸し出す楽曲などに繋がっている。
音楽には明確な線引きも存在しないし、どういった方法でどんな音を使って作曲してももちろん良いモノだ。しかし、現実的に作曲をしていると様々な法則に則って作曲した方が絶対的に作りやすいし、聴きやすいモノが出来上がりやすい。しかし梶浦氏はポップスや劇伴というようなジャンルの壁に縛られずに、自然に「Fate/stay night」という作品の世界観をアニメの映像の中に引き出すような音楽を作っているなあと感じる。だからこそ唯一無二の輝きを持っているのだろう。
Fate/stay nightは、20年の長きにわたって愛され続ける作品である。そんな作品に命を吹き込んでいる劇伴を、再度聞いてみてはいかがだろうか。視聴済みの方ももう一度アニメが見たくなるかもしれない。